人と違うものを着たいという観点でも、サステイナビリティ&サーキュラーエコノミーという観点でも、あるいは資産という観点でも、古着がこれまでにないほど注目されている。そんななか、ジャンルレスで古着の新しい価値を探求する新連載「古いけど新しい古着」をスタートする。第1回目のテーマはデザイナーズ古着の雄「ラフ シモンズ」。
古着は資産?
ラフ シモンズの古着がすごいことになっている。人気のあるアイテムは数百万円もの価格が当たり前のようにつく。下の写真の2003AW CLOSER期のピーター・サヴィルのイラストが描かれたモッズコートは、ラフのコレクターが血眼になって探しているもので、コットンのかなり着込んだものでも3桁を割ることはない。2003年にネイビーのモッズコートを代官山のセレクトショップ「リフト」で10万円台で買った「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス」の志鎌英明デザイナーは、2017年に中国のバイヤーから200万円で譲ってくれと嘆願されたという。このシーズンのラフを熱烈に愛する志鎌はその魅惑的な誘いには乗らず、今もこのコートを着続けている。もはや古着じゃなくて資産とも言えるが、この現象はいつから始まったのだろうか?
青山のデザイナーズ系ヴィンテージショップ「ライラ」は、ラフやメゾン マルジェラ(※2015年まではメゾン マルタン マルジェラ)などのデザイナーズ古着に価値を見出した世界的な先駆者だ。まだ誰も目をつけていなかった1990年代から2000年代のデザイナーズ古着をいち早く収集し、付加価値を付けて販売してきた。「セカンドストリート」や「ラグタグ」といったリユース業態も、2000年代から国内外のデザイナーズブランドの年代を明確にした上で販売してきた。もちろん海外でも同じような動きはあったはずだが、デニムのヴィンテージと同じように最初にこのジャンルの価値および知識体系を作ったのは日本だったのだ。
アメリカのある青年
でも今の爆上げ相場を作ったのは、日本人ではなく1990年生まれのアメリカのある青年だった。その名をデビッド・カサヴァントという。イギリスのセントラル・セント・マーチンズを卒業した彼は、スタイリストとして活動する一方で、14歳の頃から集めてきたラフ シモンズとヘルムート ラングの数千着にも及ぶアーカイブを貸し出す会社、デビッド・カサヴァント・アーカイブを2014年に設立した。そして彼が集めた2人の巨星のアーカイブを、カニエ・ウェストやエイサップ・ロッキーが着用したことで、ラフのアーカイブは一躍注目を集めることになる。ヴァージル・アブローがオフ-ホワイトを引っさげて本格的にデビューしたこの年、2010年代のストリートとモードの最重要ワードである“ラグジュアリー・ストリート”の幕は開けた。ラフの2000年代のアーカイブは、この潮流の“ネタ元”および“通好みの変化球”として珍重されるようになったのだ。